習作

100編を目標に空についての小説を書く。

井戸

井戸を見つけた。フラフラあてもなく散歩してなんとなく入った公園の鬱蒼とした茂みにたまたま古井戸があった。水道が発達した現代ではもう井戸なんて使わないから、僕は興味を持って蓋をしていたレンガをどけて中を覗いてみた。予想していた通り、暗くて深い井戸だった。その辺に落ちていた石を投げ込んでみると、3秒後くらいにぽちゃという音が聞こえた。音速は十分に速いとし、重力加速度が9.8m/s^2だから運動方程式F=mg=maを解いて落ちた距離をLとするとL=1/2*9.8*3^2~45m程度か。とても深い。この井戸に落ちたら落下時の速度はv=at=gt~30m/s、僕の体重を50kgとして運動量はp=mv=1500kgm/s、着地してから身体が衝撃を吸収しきる時間を0.1sとすると、力積はI=FΔt=Δp=1500kgm/s、つまり瞬間的な力はF=1500kgm/s*10s^-1=15000Nにもなる。これは人間の体重を50kgとしたとき、30人が僕の上に乗ったくらいの力だ。つまり落ちたら死ぬ。

なんてことを井戸端で考えていた。普通の人はこの井戸に落ちたら空はどう見えるかとか考えるんだろうな。きっと空は丸くくり抜かれてレーザー光線のように見えるだろう。ヤングのダブルスリット実験を思い出す。いけない。また物理学を考えていた。無限井戸型ポテンシャルに落ちた電子の気持ちを考えたら心細くなって、井戸を後にした。